理想の学会とは? | 王様の耳はロバの耳

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ゆがんだかがくしゃのたのしいにっきだよ

SIG-GTとSIG-OGの記事が面白いなあ。

http://www.rbbtoday.com/news/20060723/32513.html
http://www.rbbtoday.com/news/20060723/32515.html

発表者もさることながら、ライターの伊藤さんと小野さんの仕事ぶりも評価しないといけませんね。

ところで5月22日に書いたこのエントリー
「日記復活・DIGRA」
http://ameblo.jp/akihiko/entry-10012736516.html
http://rblog-media.japan.cnet.com/0014/2006/05/digra_4091.html
に意外な人々から反応があったことを今頃発見。

CNETブログは制約が多いのと、荒っぽい読者が多いっぽいので、あまり更新しないことにしているのですが、以下久々にコメントしてみました。

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mnagakuさんトラックバックありがとうございます&ご無沙汰です。
SIG-GTもどんどん発展していて、うれしいような、参加できなくて残念なようなちょっと複雑な心境です。

このBlogのエントリーですが、「発熱地帯」さんにもトラックバックされているようですので紹介させていただきます。
http://amanoudume.s41.xrea.com/2006/07/post_230.html

nezuさん
>学生です。学会の仕組みというのがいまいちわかっていないのですが、学会というのは理想的にはどんな風に機能するべきなんでしょうか??

学会というのは、誤解を恐れず単純に表現すれば「同人」でしょう。(「化学同人社」なんて大学教科書の出版社もありますが…)。

同じ事象について興味を持つ人々が集まり、議論したり、特には協力したりするのが目的です。
大きなものでは社団法人など税法上の優遇を受けられる社会的制度もあります(会社と同じような会計基準、1000人以上の会員などが必要)。

また学会で論文を発表・掲載するためには「査読」という審査システムがあり、前提となる背景、理論、実験、結果とその分析、考察やその後の発展方向、この論文の客観的な位置づけを示すための「参考文献」などがきちんとかかれており、その学会が採択する価値があるかどうかを複数の査読委員が査読するのが通例です。

ところでエントリーを書いたころとは間があいてしまったので「国内学会でいくら論文賞を受賞しても...」というくだりだけを引用して多くを語ることはできませんが、たとえば『日本のゲーム技術は世界一!』だったとしても『日本の~』の部分を『客観的に世界一』であると表現する部分が非常に重要です。客観的に他の技術と比較して、誰が追試しても同じ結果が出る実験や理論を提唱する必要がありますし、CGのような技術分野は特に進歩発展が早いだけでなく、ゲームのように感性が絡む分野はその「客観的な評価方法」だけでも価値があることもあります。

さて「学会というのは理想的にはどんな風に機能するべき?」という質問ですが、辞書を引いても「こうするべき」という答えが載っているわけではないでしょうね。

経験上感じることとしては…
・査読品質の高い論文誌活動や年次大会などを維持するべき
・その該当となる学問分野の成長や交流を促進させるべき
・その該当となる学問分野の社会的認知度を向上させる活動をするべき
・その研究分野の研究者がより、活動しやすくするよう環境作りに気を使うべき

…といったところではないかと考えます。

悪い例としては…
・査読がいい加減
 論文誌が定期的に発行されない、採択率が異常に高い、採択論文が科学論文としてのスタイルを満たしていない

・イベントが多すぎ
 社会的認知を得る、といった意味合いもあり、一見盛り上がっているようにも見えるが、バランスが大事で、研究者がお祭りに借り出されているだけで、研究そのものを推進する時間を奪っている事もある。

・派閥がある
 研究者同士は、普段は同人ノリで、仲がよかったり、議論を繰り返したりできるのですが、たとえば大型予算の獲得などで変な派閥があったりして、一派に大型予算があたって、その一方で予算ゼロで同テーマを研究しなければならないような状況が生まれると、関係する先生やその下の学生などには、とても言葉では表現しきれないような確執を生みます。そんな大型予算なら最初からなかったら(or平らに配ったら)よかったのに、というぐらいです。

つまり「その研究分野の研究者がより、活動しやすくするよう環境作りに気を使うべき」という意味は、学会を作ることで研究者同士が仲良くできなくなるような状況を作ってはいけない、ということです。

しかし現状は、その正反対で、ネタ、派閥、利権や確執などで学会組織は乱立し、さらに会社運営などと違って、かなり低空飛行でも存続できてしまうのが現状です(時々合併しますがなかなか短期間には収束しません)。

医療系学会でもこの手の乱立はよくおきるのですが、各学会ごとに「関係研究者が顔をあわせる利点が大きい」のと、「医療系学会自身がお金持ちである」、「関連医療業界で利権がある」とった背景からなかなか『学会の存在自体が問題』として指摘されることはありません。

日本のゲーム学会の乱立について、あえて辛口の弁を述べるのは、私自身が欧州在住だからという環境面もありますが、質実剛健な技術系学会が存在しなかった、という背景があります(それがSIG-GT立ち上げ協力の原動力でもありました)。ゲーム業界のエースエンジニアが、自らの名前を胸を張って発表できるような機会や場、科学に少しでも近づける「方法」を学ぶ場所がこれからももっと必要だな、と(どこにいても)感じます。

ゲーム学会の乱立というのは、上記に書いたような学会運営の品質を下げ、関連研究者やボランティア協力者の分散を招き、結果として、専門ではない査読者による査読や、異文化交流や質疑応答の少ない年次大会といった品質低下のデフレスパイラルを呼んでしまいます。

一度、デフレスパイラルに陥った学会は信頼を取り戻すのが大変です。少なくとも私は運営品質が目に見えて落ちていく学会のボランティアをしようとは思いませんし、できれば学会費も払いたくありません。

ちなみに逆に「よい学会とは?」という質問ですが、これはわかっていてもポンとBlogに書けるものではないですね、ノウハウが占める部分が大きいのです。

ひとつは「学会・業界が抱える問題を常に共有する」という点でしょう。また元のエントリーに書いた
「どうやったらSIGGRAPH論文で不採録をもらえるか」(Jim Kajiya)
http://www.siggraph.org/publications/instructions/rejected
にも多くのヒントがあります。

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私自身、SIGGRAPH万歳!と言いたいわけではないんですが、ネイティブ英語圏ではない人々に対する英語チェックサービス(ボランティア)とかは、かなり本質に近い気がするんですよね。
実際、私はギリギリ症候群なのでうまく使えたためしがないのが残念ですが。